音楽ゲーム全く関係ない話(前半)

タイトルの通りです。

 

今回は数学っぽい要素が出てくるので、数学アレルギーの方は気を付けてください。

 

 

 

もくじ

 

 

お手紙を3等分

この記事を読んでくれているみなさん、「お手紙」を出したことはありますか?

どこかに提出する書類とかでも結構です。何かしらの紙を封筒に入れた経験、あるのではないでしょうか。その際、紙と封筒のサイズ関係によっては「紙の3等分」という操作が必要になってきますよね。(いわゆる三つ折りです)

紙の3等分、めちゃくちゃ難しいんです……何回やっても微妙な隙間ができてしまう……。僕はA型*1なので、隙間のサイズによってはその日の夜が9時間しか寝られないくらいには気になってしまいます。死活問題ですね。

 

 

これ以上書くこと何も思いつかないので、めちゃくちゃ雑な導入終わりです。

 

 

 

ざっくり3等分

というわけでまぁまぁ精度の良い3等分をしましょう。

 

ここでの3等分は一辺の1/3の折り線を作図することを指すことにします。

あとは作図した線に合わせて適当に折ればOKなので。

 

僕は正方形の紙をよく折るので説明は正方形で行いますが、長方形の紙でも構いません。というか手紙は長方形

 

折ってみよう

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①左の縁からの幅がだいたい1/3になるように折ります。

 

以上です。ざっくり1/3の折り線ができました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勿論続きがあります

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②右の縁を、①でつけた「だいたい1/3」の折り線に合わせて折ります。

 

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③左の縁を、②でつけた折り線に合わせて折ります。

 

 

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今度こそ完成です。

 

 

 

これだけ?って感じがしますが、これだけです。

これだけではじめにつけた「だいたい1/3」の折り線よりも精度の良い折り線が作図できています。つまり正確な1/3により近くなっているということです。

 

 

理由

 

下の辺の長さを $1$ とします.

また, ①でつけた「だいたい1/3」の折り線と, 「正確な1/3」の線とのズレを $d \left( \in \mathbb{R} \right)$ とします. 今回は左縁から距離を測ることにするので, 「だいたい1/3」の折り線が

「正確な1/3」の線の左側 $\Rightarrow d \lt 0$

「正確な1/3」の線の右側 $\Rightarrow d \gt 0$ 

という感じです.

よって, ①でつけた折り線の左側の幅は $\displaystyle{\frac{1}{3}+d}$ , 右側の幅は

$1 - \left(\displaystyle{\frac{1}{3}+d}\right) = \displaystyle{\frac{2}{3}-d}$

です.

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②では①でつけた折り線の右側を半分に折るので, できた折り線の右側の幅は

$\displaystyle{\frac{1}{2} \left( \frac{2}{3} - d \right)=\frac{1}{3} - \frac{d}{2}}$

です. 左側の幅は

$\displaystyle{1-\left(\frac{1}{3}-\frac{d}{2}\right)=\frac{2}{3}+\frac{d}{2}}$

となります.

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そして③では②でつけた折り線の左側を半分に折るので, できた折り線の左側の幅は

$\displaystyle{\frac{1}{2} \left( \frac{2}{3} + \frac{d}{2} \right)=\frac{1}{3} + \frac{d}{2^2}}$

となります.

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ここで操作は終了しますが, ①と③でつけた折り線のズレを確認すると,

①… $|d|$

③… $\displaystyle{\frac{|d|}{2^2}}$

となっており, ズレが小さくなっています. つまり, ①の折り線よりも③の折り線の方が

正確な線に近い(精度が良い)というわけです. 例えば, ①でのズレが $1cm$ であった場合, ③でのズレは $2.5mm$ になります. 本当に「まぁまぁ」って感じの精度です.

 

 

余談

 

さて、お気づきの方もいるかもしれませんが、この①~③の操作は繰り返すほど折り線の精度は上がっていきます。

具体的には、 ①~③を $n$ 回行うとズレははじめの$\displaystyle{\frac{1}{2^{2n}}}$倍になります。

 

ちなみに紙を縦断するように折り線をつける必要はなく、下の辺に少し折り目をつけるくらいでも十分です。

それゆえ実際に手紙などを3等分する際には使えるテクニックだと思います。

 

僕は使ったことないけど。

 

 

 

……という感じでざっくり3等分の紹介をしましたが、この方法自体を書きたかったので手紙の件はぶっちゃけどうでもいいです。みなさんなんとなくで3等分しましょう。

 

 

 

ざっくりn等分

なっ..

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はい、3等分じゃ飽き足らない皆さんお待たせしました。一般化のお時間です。

一般化といっても紹介するのは素数等分のみです。素数等分を組み合わせることで、任意の自然数等分が作図できるからです。

例えば、一辺を105等分したい!といった気が狂ってるとしか思えないことをする場合、$105=3 \times 5 \times 7$ であるため、3等分してさらに5等分してさらに7等分したらOKというわけです。

 

今回紹介する方法は僕が4, 5年位前に読んだ本*2で紹介されていたもので、「藤本の漸近等分法」という名称で紹介されていました。

 

3等分の時と同様に、素数 $p$ に対してまぁまぁ精度の良い $1$ / $p$ の折り線を作図します。

 

作図方法

下の辺の長さを $1$ とし, 正確な線からのズレは省略して表記します.

 

$p=2$ のとき

勝手に半分に折ってください.

 

$p \geq 3$ つまり,  $p$ が奇素数のとき

①左の縁から, 幅がだいたい $1$ / $p$ の折り線をつける.

②直前でつけた折り線に対し, 次の($a$), ($b$) のどちらかを行う.

($a$) 折り線の左側の幅の分子が偶数 $\Rightarrow$ 左の縁を折り線に合わせて折る.

($b$) 折り線の右側の幅の分子が偶数 $\Rightarrow$ 右の縁を折り線に合わせて折る.

③ 折り線の左側の幅が $1$ / $p$ になるまで②を繰り返す.

 

↑作図終わり↑

 

例として $p=5$ の場合を紹介します。

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分子が偶数の側を半分にし続けると初めの折り線あたりに戻ってくる

この場合、②の操作を $4$ 回行っているので、ズレの大きさははじめの $\displaystyle{\frac{1}{2^4}}$ 倍になっています。

 

右側を折る操作をR、左側を折る操作をLとすると、50以下の奇素数 $p$ に対して $1$ / $p$ の折り線の作図は以下のようになります。

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ほーんって感じですね。37等分めっちゃ誤差小さそう。

 

僕が読んだ本ではこの方法と、記憶が曖昧ですがこの章の余談に書くことが載っていた気がします。方法の紹介ができたのでこの記事で書きたいことはもう終わったんですが、以降でつい最近の僕がこれについてもにょもにょと考えていたことを書いていきます。

 

 

もにょもにょ

なんか素数等分がざっくりできそうなのは分かりました。表を見た感じだとちゃんと $1$ / $p$ の線あたりに戻ってきてるっぽいです。これ以降の奇素数もちゃんと戻ってくるのでしょうか?

というわけで、こんな予想を立ててみます。

 

 

予想

ズレ $d=0$ のとき, 任意の奇素数 $p$ に対して①の操作の後に②の操作を適当な回数繰り返すことで, $1$ / $p$ の折り線に戻ってくる.

 

 

準備

日本語がへたくそなので予想の内容が伝わりにくいかもしれませんが、ご容赦ください。ズレがある場合は「~のあたりに戻ってくる」という表現でしたが、ズレがない場合は $1$/ $p$ の折り線が最初と最後の操作でぴったり重なる、という感じです。

 

②の操作、この後の考察をしやすくするために次のように言い換えます。

 

②' 直前でつけた折り線に対し, 次の($a$), ($b$) のどちらかを行う.

($a$) 折り線の左側の幅の分子が偶数 $\Rightarrow$ 左の縁を折り線に合わせて折る.

($b$) 折り線の左側の幅の分子が奇数 $\Rightarrow$ 同じ紙を左側に追加し, その左の縁を折り線に合わせて折る.

 

②'($b$)はこんな感じです。

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考えるのが折り線の左側だけでよくなりました。折り線の左側の分子にのみ注目すると、

②'($a$) $分子 \times \displaystyle{\frac{1}{2}}$

②'($b$) $\left( 分子+p \right) \times \displaystyle{\frac{1}{2}}$

という形になります。式にすると半分にしてる感がありますね。

 

さて、例として $p=5$ の場合に分子がどのように変化するかを追ってみると、下のようになります。

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実はこれ、$5$ を法として $1$ にひたすら $\displaystyle{\frac{1}{2}}$ をかける操作に対応してるんです。他の奇素数に関しても同様です。

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実質合同式の辺々の割り算ですが、$2$ と奇素数 $p$ は互いに素なので、合同式の辺々を割る際の条件をきちんと満たしています。

 

これにより、先述の予想が次のように言い換えられます。

 

 

予想(言い換え)

任意の奇素数 $p$ に対してある自然数 $k$ が存在し,  $\left(\displaystyle{\frac{1}{2}}\right)^k \equiv 1 \ \left(mod \ p\right)$

 

 

証明の前に

(予想って書いてるけど証明できてるから命題とかの方がいいんだよな)

$2^k \equiv 1 \ \left(mod \ p\right)$

が証明できればよいのですが, 「小」道具を使えば瞬殺です.

 

フェルマーの小定理

$p$ を素数とし, $a$ が $p$ の倍数でない正の整数( $a$ と $p$ が互いに素)のとき, 

$a^{p-1} \equiv 1 \ \left(mod \ p\right)$

 

これの証明は割愛します.*3

 

 

予想(言い換え)の証明

$k=p-1$ とすると, $2$ と奇素数 $p$ は互いに素なのでフェルマーの小定理より

$2^k \equiv 1 \ \left(mod \ p\right)$

よって,  $\left(\displaystyle{\frac{1}{2}}\right)^k \equiv 1 \ \left(mod \ p\right)$

 

 

補足

あくまで、②の操作を適当な回数行えば $1$ /$p$ の折り線に戻ってくることを示しただけなので、$p-1$ が最小の②の繰り返し数というわけではありません。$p=7$ などがその例です。

 

 

余談

長々とした証明の段取りでした。 $1$ /$p$ の折り線に戻ってくることを示したとはいえ、$p-1$ が最小の繰り返しの回数でない場合もあるし、折る手順(($a$)と($b$)どちらを行うのか)も実際にやってみないとわかりません。

 

 

いや計算でわかるんですけど。

 

 

 

 

こんな感じで求めます。

 

$1$ / $p$ を2進小数で表記する循環小数になります)

 

終わりです。

計算じゃなくて表記じゃんって感じですが、2進数に変換するときにちょこっと計算するので…

 

 

 

このとき、

循環節*4の桁数が最小の繰り返し数、

$1$ をR、$0$ をLとして循環節を右から読むと折る手順

になります。

 

例えば $p=7$ の場合、

$\displaystyle{\frac{1}{7}}=0.001001001001$...

このように2進小数で表すことができ、循環節は $001$ です。

そしてこの循環節は3桁なので、$1$/ $7$ の折り線の作図に要する②の操作の最小回数が3、折る手順は $001$ の$1$ をR、$0$ をLとして右から読んでRLLとなります。

 

50以下の奇素数 $p$ に対して調べてみると、以下のようになります。

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人口ピラミッドみたいだぁ

47等分したいやつなんていねぇよ。

 

 

 

おわりに

実はこの記事、本当に書きたかった内容の前座になってます。「ざっくりn等分」だから次どうなるかは想像つくかもしれませんが。

証明を書くときに初めは「巡回群の話とかに持って行けるかな~」とか思っていたのですが、合同式という高校数学内容*5で話が完結できる上に、フェルマーの小定理で容易に証明できたので今回の証明を採用しました。折り紙の話なのにこういう定理とか使えるんですね。

 

こんな感じで、折り紙というのは立派な数学の対象で、現在でも研究が進んでいる分野でもあります。入門というか、簡単な内容であれば中学数学で説明ができるものも多いので少しでも興味を持ってもらえたら幸いです。

ちなみに次回の内容は中学数学で全部説明できる予定です。

 

ではでは ノシ

*1:「~型自分の説明書」って本あったな~と思って調べたら2008年でした。懐かしいですね。

*2:ドクター・ハルの折り紙数学教室|日本評論社 ←伊都キャンの図書館にもあります

*3:証明気になる人はフェルマーの小定理の証明と例題 | 高校数学の美しい物語を読もう

*4:いわゆる繰り返し部分

*5:学習指導要領の都合で習ってない人もいるかもしれません