折り鶴のお話
Happy birthday to me🎉
茶番終わり。
この記事は2019年度QUaverブログリレー企画参加記事です。
タイトルにある通り、今回は折り紙の鶴のお話です。知らない人はほとんどいないであろう、伝承作品の鶴です。音楽ゲームの話をしろ(ふんぬ)
↑こんなやつ
折り鶴の折り方や歴史などはググればいくらでも出てくるのでそれらは控えることにします。但し折り方は知っている前提で話を進めるので、折り方知らんという方は一度調べることをお勧めします。(あと高校程度の数学の知識が出てきます。数学嫌いな人はごめんね。)
※この記事で紹介する定理等は他の研究者による先行結果であり、僕によって新規で得られたものではありません。念の為。
内容
- 菱形、凧形の紙
- 正方形の紙(ちょっと違う折り方)
- 任意の四角形
1. 菱形、凧形の紙
折り鶴ですが、折っている過程で次のような菱形ができます。
これを一般的に鶴の基本形と呼びます。また、鶴の基本形を広げると展開図(*1)が得られ、その展開図の中心Oを鶴心(または鶴の中心)と呼びます。この鶴心は鶴を折った際に背中の中央にくる点です。あとでまた登場します。
(*1)展開図…折った後の紙を広げたときの山折り・谷折りの様子を図で表したもの
正方形以外に、菱形の紙でも鶴を折ることができます。折り方も同様です。
↑菱形の紙で折った鶴。翼が長かったり首と尾が長かったり。
凧形の紙ではどうでしょうか。図のように首・翼・尾を配置すると同様の折り方で一応折れます。左右非対称ですね。
↑翼片方ちっさい
鶴を左右対称にしたいので次は図のような配置にしてみましょう。
折ってみます。
ここで翼となるカドをいっぱいのところで折りたいのですが、右の部分が邪魔をして折り上げることができず、鶴は完成しません。失敗です。かなしいね。
失敗の原因は、展開図において翼の折り上げでつく折り線が●印を通っていないことにあります。
↑折り線が●に繋がっていない
では、凧形の折り紙では左右対称の鶴は折れないのかという問いですが、結論から言えば折れます。左右対称の鶴をキレイに折るためには鶴心が重要で、その位置を次のように定めると、きちんと折れます。やったぁ。
↑片側の三角形の内心から、中央の線に下ろした垂線の足が鶴心。
2. 正方形の紙(ちょっと違う折り方)
正方形で鶴を折る際、次のように折ってもキレイに鶴が折れます。これを正方形の場合における前川変形といいます。
↑翼の角度が違う
次の折り方は先ほどと似たようでそこまで似てない折り方で、こちらは鶴が折れません。
↑翼を斜めに持ち上げる
鶴の基本形のように見えますが、内部の構造が邪魔をして頭と尾を持ち上げることができません(気になる方は実際に折ってみてね)。このような状態を軸がずれているといいます。
軸という用語はこの記事ではさほど重要ではないので、とりあえず折れないんだなくらいの認識でOKです。
3. 任意の四角形
任意の四角形における折り鶴の前に、先ほど第2節で鶴の基本形のように見えて鶴を折ることができない例が登場してしまったので、鶴の基本形を再定義しましょう。
定義
四角形ABCDが次の図1のような折り線で折りたためて, 線分AB, BC, CD, DA, AO, COが全て一直線上に重なるとき, 図2を鶴の基本形, 点Oを鶴心, 重なった直線を鶴の軸とよぶ.
↑図1
↑図2
鶴の基本形が再定義できたところで任意の四角形の話に入ります。
第1節で触れた菱形や凧形は、正方形ほどではありませんが"キレイ"な四角形でした(対称性の意味で)。それ以外にも四角形はたくさん種類があって、長方形や平行四辺形、その他諸々あります。
あ、ここでの四角形は凸四角形(*2)を指すものとします。話をあまり難しくしない為です。(先に言え)
(*2)凸四角形…全ての内角の大きさが180°未満の四角形
任意の四角形について鶴が折れるか否かについては既に研究がなされており、次のような定理(一部)が川崎敏和氏により与えられました。
定理
四角形の紙を用いて鶴が折れる(鶴の基本形が折れる)必要十分条件は, 四角形が内接円を持つことである.
定理の証明はA4用紙2枚くらいの文量ではありますが、ここでは割愛します。(決して書くのが面倒なわけではない)
また補足として、四角形が内接円を持つというのは四角形の4辺全てに接する円が存在するということです。三角形であればどのようなものでも内接円を持つのですが、四角形はそうとは限りません。
話を戻しますが、定理を見る限りでは内接円を持つ四角形なら何でも鶴が折れるそうです。そこでこんな疑問が湧いてくるわけです。
「じゃあどうやって折るの?」
重要なのは第1節で凧形の紙で左右対称の鶴を折る際にも登場した鶴心です。この鶴心の位置を定めることができれば、鶴の基本形及び鶴自体も折ることができます。
そして肝心の鶴心の定め方ですが、凧形の場合と同様にはできません。そこで次の定理が登場します。
定理
内接円を持つ四角形ABCDに対して, 点B, Dを焦点とし, 点A, Cを通る双曲線が存在する.
↓図で表すとこんな感じです(青いのが双曲線)
これも証明は割愛します。(決して書くのが面d)
このような双曲線上に、点を1つとります(四角形の内部であればどこでもいいです)。これが鶴心になります。
双曲線上かつ四角形の内部であれば、実は鶴心のとり方は任意です。第2節の前川変形で正方形の紙の別の鶴が折れたように、内接円をもつある1つの紙でも複数の鶴が折れるわけです。
というわけで双曲線上に鶴心をとればいいことは分かりました。では実際にどう作図すればよいのでしょうか。
1つの手法としてはGeoGebra(*3)のようなソフトを用いて双曲線及び鶴心を作図してもらい、印刷することが挙げられます。GeoGebraの場合は焦点と通る1点を選択することで簡単に双曲線が描けるので、苦もなく鶴心を定めることができます。内接円を持つ四角形も作図できるので便利です。
折り操作だけで鶴心を定めることもできますが、こちらはまぁまぁ面倒なので割愛してしまいます。機会があればその方法に関する記事を投稿しようと思っています。ポイントは双曲線が焦点との距離の差が一定である点の集合であるということです。
鶴心を定めた後は次のように折ると鶴の基本形が出来上がります。
(1) 鶴心と各頂点を結ぶ山折り線をつける。
(2) (1)でつけた隣り合う山折り線同士を合わせるように折り、角の2等分線となる谷折り線(赤線)をつける。(ここで、図の青線のようにそれぞれの角の2等分線となる谷折り線をつけておくと(4)が折りやすいです。)
(3) (1)(2)の折り線を用いて四角形になるように折り畳む。
(4) 翼となる紙を持ち上げるように折る(反対側も同様)と、鶴の基本形の完成。ぱちぱち👏
あとは普通の鶴と同じように折ると完成です。
↑翼の高さに差ができたりする
(*3)GeoGebra
割とキリがいいのでこの辺りにしておきます。いかがだったでしょうか。
日本の伝承作品である折り鶴ですが、数学と絡めてこのように話を展開することが可能だというお話でした。大学にてこれを学ぶ機会があったため、そこで得られたものを今回少しばかり紹介させていただきました。折り紙というのも立派な数学や工学の対象で、年に数回研究集会が開催されていたりもします。僕は数学徒ですので、この記事で「こういう数学もあるんだなぁ」ということを少しでも感じ取ってもらえれば幸いです。
なかなか長い記事となってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
…あれ、音ゲーの話は?